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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)9829号 判決

原告

斎藤繁栄

被告

石塚カツ 外一名

主文

被告等は原告に対し各自金四五万円及びこれに対する昭和三一年一二月一八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、十分し、その九を被告等の平等負担とし、その一を原告の負担とする。

この判決は、原告において、被告両名に対し、各金一五万円の担保を供するときは、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

一、請求原因第一項のうち、原告が、昭和三一年二月一八日、不動産取引業者である被告小泉の仲介で、原告主張の建物を、被告石塚訴外押尾ヒロヱから、代金六五万円で買い、その代金全額を支払つたこと、右敷地の所有者は訴外島田喜右ヱ門であること、原告と被告石塚との間に、右敷地について原告主張のとおり賃貸借契約が締結され、その旨を公正証書に作成したことは当事者間に争がない。

右認定事実に成立に争のない甲第三、第四号証、証人丸山延浩、同山本達也、同小泉高年の各証言(山本、小泉については後記措信しない部分を除く)及び原告の本人訊問の結果を合せ考えれば本件建物は、訴外金谷陽均の所有であつたが強制競売手続において被告石塚及び訴外押尾が競落により取得したものであつて、その敷地は、被告石塚の所有でなく、訴外島田喜右衛門の所有であり、その使用につき同訴外人の承諾をえていないにもかかわらず被告小泉は、右売買の仲介人として、原告に対し敷地が被告石塚の所有であつて被告石塚において所有者としてこれを原告に賃貸する虚偽の事実を告げて、原告に信じさせ、前記認定のとおり、その借地権設定の対価を含め代金六五万円で本件家屋買受の契約を結ばせ、代金名義で六五万円を被告石塚及び訴外押尾に提供させたことを認めることができる。証人小泉高年、同山本達也、被告小泉岩松の供述中には、敷地の所有者は、第三者と係争中であつたが、金銭的に解決されることが豫想されたのでその旨原告に告げて取引し、甲第三号証(石塚かつの賃貸承諾書)及び甲第四証(石塚カツと原告との土地賃貸借公正証書)は、原告が他から金融をうけるにつき外形を整えるため原告と被告石塚とが通謀してした仮装の文書である旨の部分は、証人丸山延浩の証言により認めることができる甲第三号証は、「借地権附売買であるのに建物の権利証だけでは意味がない」ということから被告側が持参して差入れたものであり、甲第四号証は、丸山延浩が甲第三号証をみて、原告のために「こんな簡単な書面だけでは駄目だ」といつたところ、被告小泉が「そんなに疑うなら」といつて作成することになつたものである事実、証人丸山延浩、同小泉高年、同山本達也、被告小泉岩松の各供述によつても明かに認めることができるとおり、契約上の代金額六五万円は、建物のみの価格からすれば甚しい不釣合のものであるのに、原告が買受人として借地関係が不安定なことを熟知しながら、このような契約をし、しかも前認定のとおり代金全額の支払をすることは考えられない事実並びに原告本人の供述により認めることができる原告は、昭和三一年五月四日訴外日本相互銀行との間において本件建物につき根抵当権設定契約を締結したが、この交渉が始まつたのは、その契約成立前二週間頃からのことであり、かつ、そのためには敷地の借地権を証明することを求められていなかつた事実に対比してとうてい措信するに足らない。

そして、この売買の交渉は、売主側は、被告小泉岩松、訴外押尾の内縁の夫である山本達也が関与し(尤も被告小泉岩松の兄である小泉高年は原告に対し秘かに敷地の所有者と借地権設定につき関係した形跡はあるが)、買主側は、原告及び訴外竹村時雄が関与したのであるが、敷地の賃貸借契約については、被告石塚もその書面の作成に関与し、本件建物の売買の結果代金の相当部分を占める借地権設定の対価が結局は被告石塚ら売主の利益に帰したであろうと考えられることからすれば、訴外押尾の関係は、暫くおき、被告石塚もまた被告小泉らのすることを知りながらこれに加担したものといわなければならない。この点に関し被告石塚が甲第三号証に押印するに当り、「大丈夫ですか」といつた旨の証人小島高年の供述は、未だ右認定を左右するに足らない。

果してしからば、原告は、被告両名の詐欺により代金名義で六五万円を提供したものという外はない。

二、しかして、その後右六五万円の出捐により売主の責任において原告が本件建物敷地の借地権を取得したことまたは取得しうる見込あることは、被告の主張または立証しないところであるけれども原告は、本件建物は適法有効に取得したのであつて、その価格は、証人丸山延浩、同小泉高年、同山本達也の各証言及び被告本人の供述)を綜合すれば、金二十万円を出ないものと認めるのが相当であるから、原告の出捐中その損害に帰したのは、これを差し引いた四五万円と認めるべく、被告らは共同不法行為者として連帯して原告に対しこれを賠償すべき義務があるといわなければならない。

三、よつて、原告の請求中、被告両名に対し連帯して右損害金四五万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たること記録上明かな昭和三一年一二月一八日以降民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める部分を正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九二条第九三条第一項の各規定を、仮執行の宣言について、同法第一九六条第一項の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川善吉)

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